Business Labor Trend 2009.12
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労働力人口の見通し
私からは高年齢者をめぐる実態、現
状、それから政府の進めている雇用対
策について説明させていただく。日本
では他の国で類を見ないほど急速に少
子高齢化が進んでいる。これに伴って、
労働力人口も高齢化している。推計で
は、現在働いている方々の性・年齢別
の働き方が現状のまま推移した場合、
二○一七年には約四四○万人減少して、
六二一七万人になる。さらに二○三○
年には約一○七○万人減少して、五五
八四万人になる見込みだ。
しかし、条件さえ整えば、働くこと
を希望される方や社会で活躍できる方
はたくさんいる。推計では、若者への
就業支援を行うことにより、二○一七
年には約九○万人の労働力人口が増加
する。主に女性を対象に、仕事と家庭
の両立支援を行うことで約一六○万人
増加が見込める。さらに三本目の柱と
して、高年齢者の方々が活躍しやすい
環境をつくることによって約九○万人
増が期待できる。これら三本の対策に
より、若者、女性、高年齢者の労働市
場への参加が進めば、二○一七年には
合わせて三四○万人ほど働く方が増え
て、全体としては現在と大きく変わら
ない一○○万人減、六五○○万人台の
労働力供給が確保できるのではないか
と思っている。さらに二○三○年につ
いてもいろいろな対策を講じることで
六○○万人ほど労働力人口を増やせる
だろう。
年齢階級別の就業率の推移
次に図1を見ていただきたい。これ
は二○○三年以降の年齢階級別の就業
率の推移を表したものだ。直近の二○
○八年の就業率、つまり、仕事をして
いる方の割合だが、年齢計で五七・八%
ある。「六○歳〜六四歳」層は五七・二%
なので、この数字にかなり近づいてい
ることがご理解いただけると思う。六
○代前半の方々について、この数字は
一九八○年代後半には、全体と比べて
一○ポイント程度就業率が低かったが、
これが同じになるところまで近づいて
きている。男性のところだけみると二
○○七年時点は七○・八%で、すでに
出 席 者
熊谷 毅 厚生労働省 高齢・障害者雇用対策部長
長谷川 裕子 前・日本労働組合総連合会 総合労働局長
遠藤 和夫 日本経済団体連合会 労働政策本部主幹
(コーディネーター)清家 篤 慶應義塾長
パネルディスカッションでは、熊谷毅・厚生労働省高齢・障害者雇
用対策部長が、政府が実施している高齢者雇用対策について紹介した
後、長谷川裕子・前・日本労働組合総連合会総合労働局長が、連合の
高齢者雇用についての考え方を、また、遠藤和夫・日本経済団体連合
会労働政策本部主幹が経営側の立場から高齢者雇用の取り組みの現状
を報告。そのうえで、討論では就業から六〇歳まで、六〇歳前半、六
五歳以降の雇用のあり方を中心に、行政、経営者、労働者の観点から
議論を行った。
高齢者雇用対策
厚生労働省 高齢・障害者雇用対策部長 熊谷 毅
労働政策フォーラム
パネルディスカッション
特集―これからの高齢者雇用を考える
Business Labor Trend 2009.12
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総数の七○・三%を上回っている。
ひょっとすると、近いうちに男女計で
も総数に追いつく、あるいは上回るか
もしれないところまで進んでいる状況
だ。
二○○六年から二○○七年にかけて、
「六○歳〜六四歳」層の就業率が三ポ
イント近くも増えている。これは二○
○四年に行われた高年齢者雇用安定法
の改正で、公的年金の支給開始年齢の
引き上げに合わせて、二○○六年から
雇用確保措置の仕組みが導入された影
響が大きいのではないかと思われる。
今後も年金の支給開始年齢、継続雇用
確保措置の上限年齢がさらに引き上げ
られることから、就業率はさらに増加
していくことが予想される。厚生労働
省としてはそのための環境整備を一生
懸命進めていかなければと考えている。
高年齢者雇用対策の体系
図2は政府で行っている高年齢者雇
用対策の体系を示したもので大きく三
つの柱からなっている。一本目の柱と
して、高年齢者の方が長年にわたって
培った経験、知識あるいは技能をなる
べく同じ企業の中で活かしていただく
ために、「六○歳代の雇用確保」を掲げ
ている。目標としては二○一○年度末
までに希望者全員が六五歳まで働ける
企業等の割合を五○%まで高める予定
だ。そのための具体的な取り組みとし
て、六五歳までの段階
的な定年引き上げ、継
続雇用制度の導入など
を企業にお願いしてい
るところだ。さらには、
二○一二年になると団
塊の世代も六五歳に到
達するが、そういう
方々が働くことを希望
する場合には何らかの
かたちで働けるよう
「七○歳まで働ける企
業」の普及促進にも努
めている。
二本目の柱は「中高
年齢者の再就職促進」
だ。培った経験、技能
を活かすためには同一
企業で働き続けるのが
一番いいのではないか
と思っているが、中に
は労働市場に出ること
を余儀なくされる方も
いるだろうし、これま
でと違った仕事をした
いという方もいるだろ
う。これまで、わが国
の場合、いったん企業
の外に出ると再就職が
難しいことから、平成一九年一○月か
ら募集・採用における年齢制限を禁止
した。従来はハローワークで受け付け
ている求人に年齢制限がかかり、高年
齢者については全体の半分、あるいは
三分の一くらいの仕事しかなかった。
しかし、年齢制限の禁止により、数字
の上ではどの年代層もほぼ変わらなく
なってきている。ただ、この点につい
ては実態を十分に把握したうえでさら
にいろいろな対策を考えなければなら
ない。
三本目の柱は「多様な就業・社会参
加の促進」だ。六○歳代以降、年齢が
上がるにつれ、健康や体力などの点で
個人差が大きくなると同時に就業ニー
ズも多様化してくる。そういった意味
では、企業に勤務しながらフルタイム
で働くという働き方だけでなく、いろ
いろなかたちでの就業の機会を確保す
ることが望ましい。そのため、シルバー
人材センター事業等を活用し、多様な
就業機会の確保を推進しているところ
だ。
六三歳までの雇用確保措置は
九割超
現在、公的年金の定額部分の支給開
始年齢は六三歳となっており、そこま
での雇用確保措置を義務付けている。
五一人以上の全企業の中で同措置を実
施済みの企業の割合は九六・二%と
なっている。中小企業についても九
五%を超えており、かなりの定着が見
られる。また、上限年齢も平成二五年
四月一日までに段階的に引き上げられ
るが、各企業の取り組みの実態として、
すでに八割の企業で六五歳以上の雇用
(%)
2003年2004年2005年2006年2007年2008年
総数
(男女計) 57.6 57.6 57.7 57.9 58.1 57.8
(男) (女) 70.1 45.9 69.8 46.1 69.9 46.3 70.0 46.6 70.3 46.6 69.8 46.5
60歳~64歳
(男女計) 50.7 51.5 52.0 52.6 55.5 57.2
(男) (女) 64.7 37.5 65.4 38.4 65.9 39.0 67.1 39.0 70.8 41.0 72.5 42.5
65歳~69歳
(男女計) 33.5 33.2 33.8 34.6 35.8 36.2
(男) (女) 44.4 23.3 43.8 23.8 45.0 23.7 45.7 24.6 46.9 25.6 47.8 25.5
70歳~
(男女計) 13.6 13.5 13.6 13.3 13.3 13.2
(男) (女) 20.9 8.8 20.7 8.7 20.8 8.7 20.3 8.7 20.6 8.4 20.2 8.5
(資料出所)総務省統計局「労働力調査」
図1 年齢階級別・男女計就業率推移
図2 高年齢者雇用対策施策体系
主な取組の例
①60歳代の雇用確保● 65歳までの段階的な定年引上げ、継続雇用制度等の
高年齢者雇用確保措置の義務化
○ 65歳以上定年企業等の割合を
● 「70歳まで働ける企業」の普及及び促進
(定年引上げ等奨励金の拡充等)
(改正高年齢者雇用安定法を平成18年4月に施行)
2010年度末に50%
(平成20年6月1日現在39.0%)
○ 「70歳まで働ける企業」の割合を
2010年度末に20%
②中高年齢者の再就職促進
● 募集・採用における年齢制限の禁止を義務化
(平成20年6月1日現在12.4%)
(改正雇用対策法を平成19年10月に施行)
● 募集・採用時の上限年齢設定理由の明示を義務化
(改正高年齢者雇用安定法を平成16年12月に施行)
③多様な就業・社会参加の促進● シルバー人材センター事業等による多様な就業機会の
○ シルバー人材センターの会員数を確保の促進
2010年度までに100万人
(平成21年3月末現在76万人)
特集―これからの高齢者雇用を考える
Business Labor Trend 2009.12
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確保措置を導入している状況だ。雇用
確保措置の内容をみると、継続雇用制
度の導入が八五・四%と大半を占めて
いる。一方、定年年齢の引き上げ措置
を講じた企業は一二・五%にとどまっ
ている。
最後に一点、昨年秋以降の景気後退
に伴う雇用情勢の悪化が高年齢者雇用
にどのような影響を与えるかについて
お話したい。雇用情勢が悪化すると
真っ先に影響を受けるのは高年齢者で
ある可能性が高いため、都道府県労働
局では全国各地のハローワークを通じ
て情報収集を行っている。しかし、今
年四月から六月の状況を見るかぎり、
全体として高齢者に対するしわよせは
見られないようだ。新規求職者は増加
しているが、他の年齢層に比べ増加の
度合いはやや緩やかだ。就職率も全体
的に下がっているがその中で六○歳か
ら六四歳層の減少幅はやや小さい。そ
のような中で、先ほどご説明した就業
率も六○歳から六四歳層は横ばいない
し、微減という状況だ。五月、六月の
原数値だけ見ると年齢全体の就業率を
やや上回っている。
高年齢者雇用確保措置の実施状況も
いくつかの企業あるいは労働者の方か
ら、措置の対象となる方の雇い止めを
したい、あるいは契約更新をしないと
いった相談がいくつか寄せられている。
だが、全体としては制度の凍結や年齢
の引き下げといった厳しい対応はほと
んど見られない。先ほど申し上げたよ
うな内容の相談についてもまだ大きく
広がっているという状況には至ってい
ない。したがって、足元の高年齢者雇
用の状況だけを見ると、当初私どもが
心配していたようなことはなく、高年
齢者雇用についてそれぞれの企業で
しっかり取り組んでいただいている状
況ではないかと考えている。
高齢者雇用についての
考え方
前・日本労働組合総連合会 総合労働局長 長谷川 裕子
ではないか。
二○一三年に向け改めて検討
が必要
二○一三年には厚生年金の報酬比例
部分の支給開始年齢部分が引き上げら
れることが決まっており、これを契機
に改めて高齢者雇用のあり方を検討す
る必要があるのではないかと考えてい
る。今日の報告では、われわれ、労働
組合の取り組み事例にふれながら、働
く者の視点から高齢者雇用の実態と問
題点を踏まえつつ、これからの方向性
と課題を明らかにしていきたい。
連合では、現状の高年齢者雇用の問
題点について、いくつかの単組にヒア
リングを実施した。その結果浮かび上
がった問題を製造業、非製造業に分け
て、ご紹介する。
製造業では賃金水準が問題に
まず、製造業では、賃金について「定
年前と同じ仕事をしていながら賃金水
準が定年前の五○%でいいのか。継続
雇用を希望しない理由として、賃金減
額が大きいと考えられる」という声が
聞かれた。この意見は、厚生労働省と
の意見交換会の中で私が述べたことと
まったく同じだ。賃金の減額は制度導
入当初はさほど問題ではなかったが、
改正法施行後三年が経過した現在、不
満というかたちではっきりと表れてき
た。また、「二○一三年から年金の報酬
比例部分がなくなると五○%水準のま
までは支障が出てくるのではないか。
この問題をどう考えるのか」という意
見も出された。
ある製造業の企業では組織再編がひ
んぱんに行われた結果、従業員のほと
んどがホワイトカラー系の労働者と
なった。企業側はそのほとんどを代替
可能な要員と考えており、そんな中で
「高齢者を積極的に雇用したいと思っ
ているかは疑問だ」というシビアな意
見もあった。他には「働き方や職務に
応じて賃金水準が設定されているが、
適切に職務が与えられているのか運用
面を注視していく必要がある」という
意見もあり、賃金に対しては各組合と
もいろいろな問題意識を持っているこ
とが明らかになった。
労働時間については、製造業から隔
日勤務や短時間勤務の導入を望む声は
あるが、会社との協議が整っていない
という意見が出された。また、生産計
画に基づいて要員管理を行っているの
で、ハーフタイム勤務などの希望に対
応すると管理が複雑になる、という問
題はほとんどの製造業の現場から指摘
されている。
仕事の内容に関する意見では、人手
が不足しがちな現場では、何も知らな
私からは高年齢者雇用について、連
合の考え方を報告したい。二○○六年
四月に高年齢者雇用安定法が改正され、
事業主には六五歳までの雇用確保措置
の導入が義務づけられた。
改正法が施行され、三年が経過した
現在でも個別労使で高齢者雇用の取り
組みを進めているが、私どもはそのな
かでいろいろな問題や課題があると認
識している。連合も高齢者雇用につい
てアンケート調査やヒアリングを行っ
た。先ほどJILPTからもアンケー
ト調査の結果が報告されているが、大
体どの調査も同じような傾向が出るの
特集―これからの高齢者雇用を考える
Business Labor Trend 2009.12
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い新人が入ってくるよりは、仕事内容
や職場環境を熟知している高齢者のほ
うが安心感があるという声が聞かれた。
しかし、「雑務のフォローなど現役世代
の仕事を補完するような業務が多く、
第一線の現場で働くような機会は限定
されている。継続雇用をする際、なる
べく、これまでの経験を活かして、同
じ職場で働いてもらえるよう努めてい
るが、それにも限界があるのではない
か」という意見もあった。今後、定年
到達者が増えるなかで、希望者全員の
働く場をどう確保していくかは大きな
課題だ。
現場作業の場合、作業環境が体力的
に厳しいこともあり、働きたくても再
雇用を希望しない人もいる。企業側も
労使交渉を経て、高齢者に優しい作業
環境整備への取り組みを進めているが、
今後定年退職者が増えるなか、そのス
ピードアップが課題となっている。
働き方は現役世代との調整も
必要
また、定年を迎える当事者だけでな
く、高齢者を受け入れる側も含めて職
場全体の問題ととらえて対応する必要
がある。高齢者がどんなかたちで仕事
や職場での働き方を受け止めているか
という点について、現役世代との間で
調整が必要ではないか。これは個人的
な意見だが、たとえば六○歳でやめる
と思っていた人があと三年も職場にい
るとなったとき、若手がそれをどのよ
うに受け止めるのか、また、そこで現
役世代と高齢者との間の関係をどのよ
うにつくっていくのかということも考
えていく必要がある。
継続雇用の対象者の選定は、本来、
基準を設けずに希望者全員を対象とす
る制度が望ましいが、そのことについ
て労使間で協議が整っていないのが現
状だ。実態として、職場に過半数組合
があるときは過半数組合、過半数組合
がないときは労働者の過半数を代表す
る者との協議を経て、基準を決めるこ
とになっている。これは結局は何らか
の選定基準を設けることになり、ふる
いにかけられる人もでてくる。
サービス業では柔軟な制度設
計に
次に非製造業の職場からのヒアリン
グ結果を報告する。こちらは製造業と
は若干異なる様相を呈している。C労
組では一気に六五歳まで定年を延長し
たが、それに伴うコストをどうやって
捻出するか労使で非常に苦労したそう
だ。保養所を廃止したり、福利厚生費
や家族手当などすべてのコストを見直
すことで対応したということだ。今後、
六五歳までの雇用確保を考える際、こ
の労働組合の取り組みは参考になるの
ではないか。
D労組では、賃金について、たとえ
ばフルタイムの場合、月額三○万円と
いったように一律の水準となっている。
組合では大卒初任給の基準内賃金を下
回らないことを基本に要求してきたが、
今後、賃金水準をどのように設定する
かが今後の課題ということだ。
労働時間については、サービス業で
はフルタイム労働者やパートタイマー、
再雇用者などが混在しており、勤務シ
フトの組み方で苦労しているという報
告がある。また、D労組では再雇用者
も原則、フルタイムで働いているが、
短日勤務の要望もあったことから、面
談を行ったうえで、これを認めること
を労使協定に盛り込んだ。サービス業
の場合、製造業よりも比較的柔軟な制
度設計ができるようだ。
D労組によれば、再雇用者は店舗で
の接客業務を中心に担当することにな
るが、これまでの経験やスキルを比較
的活かしやすいため、いきいきと働い
ている人が多いそうだ。また、C労組
からも顧客に対するサービスや商品知
識など、これまでのキャリアを通じて
蓄積されたものを活かすことができる
ため、これまでのキャリアの長さがプ
ラスになるといった意見があった。
再雇用対象者については、組合側は
基準を設けず希望者全員を再雇用する
ことを要求してきたが、実際はなんら
かの基準を設けるかたちで労使協定を
締結している。
以上、見てきたとおり、製造業と非
製造業では、抱えている課題が若干
違っていることがおわかりいただけた
のではないだろうか。
必要な早期の制度策定
労働者の立場で問題点を整理させて
いただく。高年齢者の雇用を確保する
方法として、継続雇用、定年延長、年
齢の上限を設けないエージレスといっ
た方法が考えられる。継続雇用の場合、
賃金体系や退職金制度の見直しは意外
に小さく済む。一方、定年延長を行う
と、おそらく賃金体系の見直しは必ず
必要になってくる。だが、エージレス
ほどではないだろう。エージレスを取
り入れた場合、これらは大きく見直す
必要があるのではないか。労働組合と
しては、賃金体系は見直したくないと
いうのが正直なところだろう。企業側
にとっては、人件費増額の問題は、見
直し方によっていろいろなケースがあ
りうるのではないかと思っている。い
ずれにせよ、制度策定を早期に進める
ことが必要ではないかと考えている。
職場環境の改善や健康管理の促進に
ついては、先ほどご紹介したように製
造業で強く要望があがっている。
要員管理の煩雑さの問題では、非正
規労働者の雇用の拡大に伴い、人員配
特集―これからの高齢者雇用を考える
Business Labor Trend 2009.12
16
置の見直しの検討が必要だ。定年延長
をしたときにはその後の働き方の検討
をしなければならない。今まで申し上
げてきたように働き方の検討や賃金、
退職金の見直しはどうしても議論の俎
上に載ってくるので、これに対して労
働組合がどのような対応をしていくか
は今後の大きな課題になるのではない
かと思っている。
継続雇用の場合、現状では選別基準
が設けられており、この問題は解決し
なければならない。エージレス雇用を
行っている場合は、よく言われている
ように解雇の問題が浮上してくるため、
労働組合としてこれに対応していく必
要がある。また、エージレスの場合、
年金制度における繰り上げ支給の減額
問題などに対応した制度の見直しも必
要ではないだろうか。
二○一三年には厚生年金の報酬比例
部分の支給開始年齢が引き上げられる
が、それまでに職場環境の問題をどの
ように改善していくかが労使の取り組
みの中で求められている。また、問題
点に対する方向性を打ち出し、労使と
してどのように向き合っていくかが今
後の課題ではないかと思う。
高齢者雇用の取り組み
の現状
日本経済団体連合会 労働政策本部主幹 遠藤 和夫
継続雇用制度による対応を企業が選
択する理由を聞いた結果が図2である。
いったん定年により退職することにな
るため、「個別の事情に応じて仕事を提
供し、労働条件の決定ができる」とい
う回答が約七割(六九・六%)、また、「定
年以降の継続勤務を希望しない従業員
の意思を尊重できる」という回答につ
いても五六・五%と過半数を占めてい
る。
継続雇用制度の具体的内容
図3は継続雇用制度の上限年齢を聞
いた結果である。雇用確保措置の上限
年齢を六五歳にしている企業はすでに
約七割(六八・二%)に達しているが、
まだ段階的に対応している企業が相当
数あることも十分認識しておく必要が
ある。次に、継続雇用制度適用後の具
体的な就業形態を聞いた結果が図4で
ある。先ほどお話があったように労働
者側からは柔軟な就業形態を望む声が
あがっている。しかし、例えばライン
作業などを考慮すると、なかなか要望
に応えられないという事情もあり、八
一・七%の企業で「定年前と同じ勤務
日数、勤務時間」と答えている。
各企業において継続雇用制度を希望
した者の割合を聞いたところ、「九○%
以上」と答えた企業の割合は二二・六%
にとどまっている(図5)。この結果は、
六〇歳以降の柔軟な働き方が必ずしも
できないことが影響しているともいえ
るが、定年到達後、継続して働くこと
を希望しないで多様なライフスタイル
を求める労働者像についてもうかがい
しることができるといえるのではない
か。
再雇用における対象者の選定基準に
高年齢者雇用確保措置の状況
私からは会員企業向けに行ったアン
ケートの調査結果(「高齢者雇用の促
進に向けた取組みと今後の課題」二〇
〇八年一一月)を報告させていただき
たい。また、後半ではヒアリングの内
容についてもふれてみたい。その中で、
高齢者雇用が抱えている諸課題をご来
場の皆様方と考えていきたいと思う。
図1は高年齢者雇用確保措置の実施
状況である。他の報告者の調査結果と
比べて、私どもの調査では数字が高く
なっており、実に九八・四%の企業が
継続雇用制度の導入により高齢者の雇
用確保を行っていることが明らかと
なっている。一方で定年の引き上げ、
あるいは定年の廃止による対応は双方
を合わせても一・四%にとどまってい
る。
図1 改正高年齢者雇用安定法への対応
図2 継続雇用制度の導入を選択した理由(複数回答)
特集―これからの高齢者雇用を考える
Business Labor Trend 2009.12
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ついては、「希望者全員」と回答した企
業が一五・六%であるのに対し、一定
の基準を設けている企業は八四・二%
と大多数を占めている(図6)。基準
としては、健康状態や勤務成績などを
考慮している企業が多いと聞いている。
ただ一方で、ヒアリングによりわかっ
たことであるが、「一定の基準は設けて
いるが、希望すれば全員が継続雇用さ
れている」という実態が少なからずあ
ることも補足しておきたい。
再雇用時の処遇水準
再雇用時の賃金設定についても聞い
ている。処遇決定に際して配慮した点
としては、「継続雇用制度適用後の職務
内容・仕事量」が六三・七%、「六○歳
までの賃金水準」が四一・六%となっ
ている(図7)。賃金の設定については、
大きな課題を抱えていると認識してい
る。実際のところ、図8のとおり、在
職老齢年金、高年齢雇用継続基本給付
金両方の受給を前提として賃金を設定
している企業が四八・三%あり、どち
らか一方の受給を前提としている企業
も相当数あるのが現状である。つまり、
公的給付を考慮して処遇設計を行って
いる企業の割合は七割を超えているこ
とになる。
アンケート調査では、六五歳までの
雇用確保に向けてさらなる課題につい
ても聞いている。継続雇用制度の適用
前後における職務内容の変化の有無に
ついては「職務内容は同じだが仕事量
と責任の負担を軽減した」とする回答
が四三・一%ともっとも多かった(図
9)。高齢者も働く意欲・能力は当然
あるのだが、若年者に比べると個人差
が大きく、体力や健康状態も勘案する
と、作業改善を図るなど、職務の再設
計を行ったり、また、能力開発や安全
衛生上の対応を行ったりすることも必
要となっている。定年到達者の数その
ものが増加していること、さらには定
年到達者のニーズが多様化していく中
で、今後、企業あるいは企業グループ
内でどのように職域を拡げて職務を確
保していくのかが大きな課題となって
いる。同時に、高齢者の方々が働き続
ける中で組織全体の活性化を図りつつ、
どのようにパフォーマンスを高めてい
くのかという点についても課題として
指摘されている。
六五歳以降の雇用確保への課
題
六五歳以降の雇用確保についても聞
いている。六○歳定年制のあり方につ
いては、「維持すべき」という回答が七
六・一%を占めている(図
10
)。一方、「定
年年齢を引き上げるべきだ」とする回
答は二○・八%となっており、その内
訳をみると、引き上げるべき定年年齢
は六五歳と答えた企業が八八・四%と
なっている。
六五歳以降の雇用確保への課題につ
いては、「健康面で支障がない限り、六
五歳以降も働く意欲・能力のあるもの
図3 継続雇用制度の上限年齢
図4 継続雇用制度適用後の就業形態(複数回答)
図6 継続雇用制度の対象者図5 継続雇用制度を希望した者の割合
図7 継続雇用制度の処遇決定時に配慮した点(複数回答)
特集―これからの高齢者雇用を考える
Business Labor Trend 2009.12
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は積極的に雇用していきたい」と回答
した企業が二四・四%である。しかし、
「法律などで義務づけるのではなく、
各企業が実情に応じて可能な限り取り
組んでいくべきである」と回答した企
業がもっとも多くて四二・三%を占め
ている(図
11
)。また、「高齢者は健康
面や能力、意欲面での個人差が大きい
ため、積極的に取り組むには難しい面
もある」という率直な回答を寄せた企
業が三○・二%もあった。
ヒアリング調査に基づく課題
ヒアリング調査の結果も簡単にご紹
介しておきたい。多くの企業で継続雇
用制度を導入しているので、資料では、
再雇用制度の場合の評価と課題につい
て整理している。定年後も知識や経験
を引き続き活用できることのメリット
などを評価する一方で、課題も指摘さ
れている。職域の拡大やマッチングな
ど職務設計上の課題が多くあがってい
る。処遇面では「現行の公的給付の仕
組みでは、報酬を増やしたとしても公
的給付が減少してしまい、トータルの
手取額はほとんど増えない。その中で
個々の労働者のモチベーションをどう
維持していくのか」という制度上の課
題もある。他には、加齢とともに能力
が低下することを踏まえた安全面への
対応、組織そのものの活性化への対応、
高齢者が引き続き雇用されることで人
材の新陳代謝の遅れにつながることへ
の懸念などが指摘されている。また、
「辞める時期が人によりまちまちで予
想が難しいために、採用計画が立てに
くい」、「事務系では退職者の職域を確
保しなければならないので、新卒採用
の抑制を行うなどの影響が予想され
る」といった声もあった。
高齢者雇用の施策は大変重要である
と認識しているものの、高齢者以外の
方々、とりわけ若年者雇用については、
他の年齢層よりも失業率が高く、一向
に改善がみられないといった問題も抱
えている。企業としては、労務構成の
バランスを考えながら、生産性を維持、
向上させながら、競争力を確保するこ
とに取り組んでおり、そういった中で
高齢者雇用を考えていきたい。
図8 在職老齢年金、高年齢雇用継続基本給付金の受給について
図9 継続雇用制度適用前後の職務内容(複数回答)
図10 60歳定年についてどう考えるか
図11 65歳以降の雇用(70歳まで働ける企業)についての各社の考え(複数回答)
特集―これからの高齢者雇用を考える
Business Labor Trend 2009.12
19
清家 各パネリストから、六五歳まで
の雇用確保措置を進めるにあたっての
課題についてご報告いただいた。その
中でもっとも大きな課題だと考えられ
る点を各自にお話していただきたい。
先ほど長谷川さんから非常に面白い
事例をたくさんご報告いただいた。製
造業と非製造業で事情が異なるとはい
え、やはり六○歳代前半の賃金水準の
あり方は一つの大きな課題となってお
り、組合員の中でもいろいろと意見が
分かれているようだ。現状では継続雇
用制度により雇用確保を行っている企
業が多いため、今のところ賃金体系の
見直しは小幅で済んでいるということ
だった。
しかし、それはあくまで六○歳まで
の賃金体系についての話であり、六○
歳以降は賃金水準が五○%程度まで低
下している。雇用を延長するうえで、
同じような仕事をしている人の賃金が
大幅に下がる、あるいは高年齢雇用継
続給付との合わせ技で何とか六○歳到
達前の水準を保っているということに
ついて、組合として、もしくは長谷川
さん個人としてどのようにお考えなの
かお聞かせいただきたい。
労使の知恵で合わせ技に
長谷川 再雇用時の賃金制度を設計す
るにあたっては、賃金水準を退職時の
五○%から五五%に下げたうえで、高
年齢雇用継続給付との合わせ技で退職
時の八五%程度の水準を保てる
ようにした。これは高年齢者雇
用安定法が改正され、とにかく
六五歳まで雇用を継続しなけれ
ばならないということで、当時
の労使の知恵だったのではない
か。雇用を継続するときにエー
ジレスにするのか、それとも年
金支給開始年齢まで段階的に定
年延長を図るのか、それとも継
続雇用がいいのか。連合は各単
組にどの形式を選んでもよいと
伝えたが、ふたを開けてみたら
ほとんどが継続雇用制度を選ん
だ。その理由は、継続雇用は六
○歳までの賃金体系をいじらな
くても済むからだろう。仮に定
年延長などを前提に制度設計を
行うとなると、労使交渉のなか
で大幅な賃金体系の見直しに取り組ま
なければならない。しかし、当時は継
続雇用を導入するかわりに、賃金体系
には手を出さないということで労使双
方が納得していた。しかし、制度導入
後、何年か経過したところで、「何で定
年前と同じように働いているのに賃金
は五○%なんだろう」という不満が出
てきた。これに対し、今のところは組
合では積極的にどこを直そうという議
論には至っていない。まだ、問題意識
として提起されている段階だ。
清家 先ほどの遠藤さんのお話でも、
多くの企業は継続雇用制度で雇用確保
を行っており、しかも賃金水準を定年
前に比べるとかなり下げながら、高年
齢雇用継続給付や年金の報酬比例部分
との合わせ技で一定水準を確保してい
るということだった。やはり、経営側
としても合わせ技を行うことを前提に
賃金水準を五割程度にまで落としてい
かないと継続雇用は難しいとお考えな
のか。
遠藤 長谷川さんからお話があったよ
うに、ここまで継続雇用が進んできた
のはまさに労使の努力以外の何者でも
ないと思っている。そういった中で現
状はどうなのか、それから、今後はど
うしていくのかということは、分けて
考える余地があるのかもしれない。
私どもは以前から処遇は公正である
べきことを主張している。では、何を
もって公正とするかといえば、仕事、
役割、貢献度に応じて賃金制度を作る
ことである。
しかし、六〇歳以降に従事する職務
を想定したときに、このような考え方
が当てはまるかどうかの十分な検討を
終えてはいない。現段階では、仕事、
役割、貢献度に応じた処遇体系の中で、
再雇用後の方々を活用できる状況があ
り得るのかといったことは、職域の拡
がりの中で今後の検討に委ねられてい
ると考える。ただ、処遇を考える上で
の一例だが、再雇用後は転居を伴う転
勤がなくなるため、賃金決定要素の中
に地域性を加味して再構築することも
考えられるのではないか。
清家 従来の考え方からいえば、高年
齢雇用継続給付は六○歳以降の雇用に
誘導するためのいわばインセンティブ
としての意味合いがあった。しかし、
仮に六五歳まで本格的に働くことが普
通になった場合、高年齢雇用継続給付
をいつまでも残しておくのはいかがな
ものかという考え方もあると思う。六
五歳までの雇用を継続してもらうとい
う面での政策、特に賃金面での政策に
ついて行政としてはどのようにお考え
になっているのか。
討
論
特集―これからの高齢者雇用を考える
Business Labor Trend 2009.12
20
熊谷 行政の立場からすると、賃金は
労使で話し合って決めていただくこと
が大原則だ。だが、一般論として申し
上げるならば、賃金は労働の対価なの
で、働きに見合ったものであることが
原則だろう。そういう意味でその時々
の仕事で評価するのか、あるいは年功
的にある程度の期間で見ていくのかと
いう問題がある。長谷川さんからもお
話があったとおり、定年を延ばすとい
うことになれば、六○歳以前から含め
て見直していく必要が出てくるかもし
れない。高年齢雇用継続給付について
は、高齢者雇用の実態や雇用継続給付
が果たしている役割、働き方や雇用の
あり方を踏まえて、労使も入った審議
会で検討していく必要があるのではな
いか。
六〇歳以降の雇用をどう考え
るか
清家 その合わせ技の賃金は、六○歳
代前半の雇用の性格を考えるうえで非
常にシンボリックな部分があるように
思える。六五歳まで企業に雇用を確保
してもらおうという考え方の前提には、
一つは先ほど冒頭で申し上げたとおり、
年金の支給開始年齢が六五歳に引き上
げられることがある。これは人口の高
齢化を考えれば必須の制度変革だ。六
五歳までは現役で働くことを前提に雇
用確保措置を考えるとすれば、六五歳
まで働くことが当たり前になった段階
で六○代前半だけ賃金を助成しながら
雇用するのは「ちょっとどうかな」と
いうことになってくると思う。だが、
一方で、六五歳まで働くことは当たり
前ではないので、何らかの政策的助成
も行わないと働いてもらうことは難し
いという前提に立てば、従来どおり公
的給付との合わせ技での雇用継続を続
けていかなければならない。六五歳ま
での雇用確保をどう考えるかでそこは
ずいぶんと違ってくるのではないか。
ただ、合わせ技といっても、最終的に
は報酬比例部分も含めて六○代前半の
老齢厚生年金はなくなることから、長
期的には六○代に達する以前から継続
して、少なくとも六五歳まで現役で働
くことが標準だというかたちに変わっ
ていかざるを得ないのではないか。
先ほども申し上げたように、当面は
まず六五歳までの雇用をしっかりと確
保するためにいろいろな合わせ技も含
めて行っていく必要がある。しかし、
六○代前半は六○歳までとは別のかた
ちで雇用を確保するのか、それとも今
の六○歳までの雇用と同じように六五
歳までの雇用もごく当たり前のものと
して確保するかは、おそらく労使の間
で少しスタンスは違うのではないか。
遠藤 先ほど報告したアンケート調査
の結果にもあったとおり、六○歳以降
の労働条件については、定年退職に
よっていったんリセットし、その後の
働き方に応じて制度設計をしているの
が現状であり、今後もそういった考え
方を中心に据えながら、公的給付への
対応を踏まえてどの部分を変更できる
のかということで考えていかざるを得
ないのではないだろうか。
例えば、いくつかの選択定年制の事
例をみてみると、五五歳のころから賃
金カーブを寝かせて選択定年の年齢ま
で延ばしていく形での対応が紹介され
ている。公的な年金給付を伴わないこ
とを前提に賃金を設計するということ
であれば、六○歳以前の段階で賃金
カーブを寝かせていくような対応をせ
ざるを得ないのではないかと思ってい
る。
清家 今のご意見は、使用者側でも六
○歳到達以前のところも含めて賃金
カーブの調整ができるのであれば、定
年延長というかたちで雇用を確保する
仕組みも可能だと考えているというこ
とか。
定年延長をめぐる議論
遠藤 そこまではまだ見解が統一され
ているわけではない。
清家 もちろん、遠藤さんの個人的な
お考えでも大歓迎だ。
遠藤 再雇用の対象者の選定について
は、現状では一定の基準を設けている
企業の割合が八割強ある。しかし、基
準があるからといって、そこから漏れ
た方がいるかというとそうではなく、
希望者がほぼ全員再雇用されている実
態も聞いている。しかし、そこではや
はり、一定の基準を置くことが、受け
入れる職場にとっても再雇用者と一緒
にまた仕事を続けることへの納得感、
理解を得るということになり、必要で
はないか。個人的な見解を申し上げる
ならば、処遇にもつながることであり、
一定基準の枠の中で対象者を選別して
いく仕組みについては今後も残してい
く必要があるのではないかと思ってい
る。
清家 なるほど。長谷川さんのご意見
もうかがいたい。
長谷川 六○歳で定年退職した場合、
それ以降の雇用は、有期契約でかつ、
定年前とは別の賃金表を使っており、
ある意味非正規雇用に近い状態だ。非
正規ということであれば、ある程度不
満が出るにせよ、公的給付との合わせ
技でも納得感を得られる。
今後再雇用者の数が増えるなかで、
特集―これからの高齢者雇用を考える
Business Labor Trend 2009.12
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さらに二○二五年以降、老齢厚生年金
の報酬比例部分がなくなると、この制
度設計の前提が異なってくる。今のと
ころはまだ継続雇用と高年齢雇用継続
給付との合わせ技でうまくいっている
ため、当面は現状維持で行くつもりだ。
ただ、今回の高年齢者雇用安定法の
改正のとき、連合は六五歳定年制を打
ち出せなかったこともあり、今後も議
論をしていかなければならないと思っ
ている。だが、五五歳、場合によって
は四○歳から賃金カーブを寝かせると
なると組合員はかなりの抵抗感を抱く
ため、見直しは難しいだろう。今後、
どのようなかたちで雇用の確保、雇用
形態、賃金制度の設計をするかは、労
使で知恵を出し合っていきたい。
もう一つの問題点は、サービス業は
比較的仕事の内容や勤務形態を弾力的
にできるのだが、製造業の現場ではそ
れが可能なのかということだ。中小企
業では七○歳になっても働いている人
の話を聞くが、本当に職場環境の改善
なしに高齢者を受け入れることができ
るのか。
清家 熊谷さん、場合によっては個人
的なご意見も含めて行政の立場として
の見解をお示しいただきたい。
熊谷 先ほどからお話に出ているとお
り、公的年金の支給開始年齢を六五歳
まで引き上げることはすでに決まって
いる。したがって、働く方々が高齢期
に不安を抱かずに安心して生活してい
けるようになるためには雇用がしっか
りとこれにつながっていくことが非常
に重要だ。そういう意味では、働きた
い人は必ず六五歳まで働ける環境の整
備にしっかりと取り組んでいかなけれ
ばならない。個人的な考えを申し上げ
るならば、六五歳まで誰もが働くこと
になった場合、その途中の段階に年齢
的な節目が入るのは若干不自然ではな
いかと思う。五五歳定年を六○歳に延
ばす過程でも労使の取り組みの中で賃
金カーブを寝かせてきたが、そういっ
た延長線上で同様のことができるのか
といったことも含めて、できれば不自
然なかたちがないほうがいいのではな
いかと考えている。
重要な労使によるルールづく
り
清家 熊谷さんからのご報告にもあっ
たと思うが、改正高年齢者雇用安定法
が施行されてから、特に六○歳代前半
の就業率が目に見えて上昇している。
そういう意味では改正法の影響は統計
的にも非常に有意に出てきている。
そもそも年金の支給開始年齢が六五
歳になるときに本来は六五歳定年制を
導入してもよかった。だが、やっぱり
それではなかなか難しいということで
ちょっとおまけして継続雇用制度も入
れましょうということになった。継続
雇用制度も原則は希望者全員を対象に
するはずだったが、それもなかなか難
しいのでちょっとおまけして、希望者
全員が原則だが一定の基準を設けても
いいことにしましょうということに決
まった。この「一定の基準」は原則、
労使協定などで定めることになってい
るのだが、これもまたちょっとおまけ
して、労使協定を締結できない場合は、
当面の間は使用者が就業規則で一方的
に定めてもいいということにしましょ
うということで落ち着いた。当時は「お
まけにおまけを重ねてなんだ」という
議論もあった。だが、この改正高年齢
者雇用安定法がこれだけ有効に働いて
きたのは、妥協を重ねたとはいえ、労
使がぎりぎり納得できる線を決めたう
えは、そのルールのもと雇用を確保す
る措置をしっかりと講じてきた成果で
はなかったか。
先ほどの報告にもあったとおり、九
割以上の企業が雇用確保措置を講じて
いる。これまでの高年齢者雇用の歴史
を見ても、例えば、六○歳定年制を導
入する際も最初は努力義務から始まっ
た。その努力義務がだんだん浸透して、
七、八割のぐらいの企業が六○歳まで
の雇用を達成しつつあるころに今度は
六○歳定年制の導入を義務化した。こ
のようなかたちで時間はかかっても労
使が納得しつつ、制度が浸透するペー
スを見ながら新しい雇用ルールを決め
ていくということが、特に高年齢者雇
用の部分では日本で成功してきたよう
に思える。
特に他の先進国と比べると日本の高
齢者雇用政策は一貫して、高齢者の就
労を段階的に進めることに成功してき
たと思う。そのことから考えると、こ
の六五歳までの雇用確保措置も当面は
賃金の合わせ技も含めて、今のような
かたちでしっかりと雇用を確保してい
くのがよいと思う。ただ、二○二五年
には合わせ技の一部である報酬比例部
分もなくなっていくわけで、最終的に
は、例えば六五歳まで定年を接続して
いくようなかたちに日本の雇用ルール
を持って行くという選択肢も真剣に考
えていかなればならない。その点につ
いては、すでに一部お話いただいてお
り、労使双方でもいろいろご苦労があ
るかと思うが、行政の立場の見通しは
どうか。
今後の高齢者雇用の見通し
熊谷 現時点で見通しを申し上げるの
はなかなか難しいが、現実に企業の中
では六五歳まで働ける制度の導入が着
実に進んでいる。さらに将来、六五歳
定年制の導入を考えるとなると、希望
者全員が六五歳まで働ける制度の導入
がさらに進むという過程を経た上で実
現していくということになるのではな
いか。現在、私どもは希望者全員が六
五歳まで働ける企業の割合を二○一○
年度までに五○%に持っていくことを
目標にしている。現在三九%だが、で
きるだけこの水準を上げていくことで
次のステップへつながるではないかと
考えている。
清家 二○一三年度までに六五歳まで
特集―これからの高齢者雇用を考える
Business Labor Trend 2009.12
22
の雇用が確保されたとして、それ以降
も今のような継続雇用制度で雇用を確
保するのか、あるいは定年延長をする
べきなのか。先ほどのお話では、今の
ところは連合も六五歳までの定年延長
を打ち出すには至ってないということ
だったが、長谷川さんの個人的な見解
も踏まえて、長期的な展望をお聞かせ
いただきたい。
長谷川 連合では二つの意見がある。
一つは六五歳まで定年を延長すべきだ
という意見。もうひとつは六○歳で
いったん定年退職させたうえで、希望
者全員を雇用すべきだという意見。現
状ではこの二つの意見を調整すること
ができていない。
ただ、私が先ほど申し上げたように
二○二五年以降、六○歳代前半の年金
がなくなった時にどうやって五年間食
べていくのか。大企業は企業年金があ
るからいいかもしれないが、中小企業
は難しい。おそらく、二○二五年以降、
六○歳から六五歳までの雇用確保を継
続雇用で行うべきか、あるいは定年延
長を法制化すべきかいうことが連合内
でも大きな議論になっていくだろう。
年金の支給開始年齢が六五歳になる
と、職場の中には二○代、三○代、四
○代、五○代、六○代と各世代が働い
ていることが当たり前の姿になる。今
は法律で決まっているので何とかして
高齢者のための仕事をつくらなければ
ならないという状況だ。たとえは悪い
が、高齢者にとっても「おまけ」のよ
うな働き方になっている。だが、今後
はどんな職場でも六五歳まで働くのは
当たり前でそのための職場環境をどう
作るかということが問われる。職場環
境が整えば、残るのは処遇の問題だが、
これは考え方が分かれるところなので、
さらに議論の必要がある。
高齢者が働くことが職場の中でまだ
うまくいっていない気がする。だから、
この二、三年の間に六○歳から六五歳
までの人が普通に働ける職場を整備し
ながら、処遇問題について知恵を出し
合っていくべきではないかと思う。
遠藤 あくまで個人的な見解として申
し上げたい。私も、高齢者雇用に関わ
る方々に突きつけられた宿題をこの数
年の間にやり遂げなければならないと
感じている。高齢者の方々が組織の中
でどういった役割を果たし、期待にど
ういう形で応えていくのか、そして、
それを成果としてどのように出してい
くのか。企業サイドもそういう形を求
めることで双方のニーズが合致するの
であれば、公正な処遇が実現できると
思っている。
今日、雇用の場をどのように創出し
ていくかが大きな問題となっている。
高年齢者雇用安定法の精神は企業、あ
るいは企業グループの中で安定した雇
用の場を確保することにあるが、一方
現状では、外部労働市場にいる方々に
どういう形で雇用の場を提供していく
のかということも大きな命題として企
業に突きつけられている。雇用全体を
見渡したときに様々な年齢層の方々が
働いており、どう処遇していくのか、
どう活用していくのか、その結果とし
て日本の社会そのものがどういう形で
展開していくのかといったことを見据
えながら、高齢者雇用について考えて
いかざるを得ないと思っている。
七〇歳まで働ける社会の実現
に向けて
清家 ここまで六五歳までの雇用確保
をどのように進めていくかというお話
をしてきた。これまでの議論で六五歳
まで希望者全員の雇用がしっかりと確
保されるよう労使で工夫をしていくこ
とが大切だということについてコンセ
ンサスは得られたと思う。
熊谷さんのお話のように、二○一二
年には団塊の世代の四七年生まれの人
が六五歳に達する。政府では七○歳ま
で働ける社会も視野に入れて政策を進
めておられるわけだが、この六五歳以
降の雇用について、熊谷さんのお考え
をうかがいたい。
熊谷 六五歳までの雇用が当面の非常
に大事な課題であることは間違いない。
だが、六五歳以降もまだまだ働きたい
という方もかなりいる。特に今のお話
にあった団塊の世代はまもなく六五歳
に到達するが、六五歳を超えても働き
たいという方がかなり多くなっており、
そのニーズにできるだけ応えていく必
要があると考えている。
わが国の労働力人口の減少が見込ま
れる中で、働く意欲があり、しかもい
ろいろな知識、経験を持ち合わせてい
る方々に十分活躍していただく場をつ
くっていくことは非常に大事なのでは
ないか。「七○歳まで働ける企業」と
いうキャッチフレーズでその普及、促
進を図っていきたい。
清家 六五歳以降の雇用について、長
谷川さんからも一言いただきたい。
長谷川 連合としては当面、希望する
人全員について、六五歳までの雇用確
保に取り組む。その上で六五歳以降も
意欲ある人がエージレスで働ける社会
をつくるべきだと考えている。
ただ、六五歳以降の雇用について具
体的な議論はしておらず、意欲と能力
のある人は働いたらいいんじゃないか、
という整理にしている。
清家 それでは最後になったが、今日
特集―これからの高齢者雇用を考える
Business Labor Trend 2009.12
23
言い残したこと、あるいは最後に言い
たいことを一言ずつお願いしたい。
長谷川 私はどんな職場に行ってもあ
らゆる世代が生き生きと働ける職場と
これを実現できる社会が望ましいと思
う。したがって、高齢者の問題を高齢
者の問題として、議論するのではなく
職場の中でどう仕事を分かち合ってい
くのかという議論を共に行っていかな
ければならないのではないか。その意
味では高齢者の雇用は単に高齢者だけ
の問題ではないのだ。
遠藤 私は先ほど「高齢者雇用に関わ
る方々には宿題が突きつけられてい
る」と申し上げたが、それは働く側だ
けの問題ではなく、企業側にも突きつ
けられた宿題でもあると思っている。
その意味で、高齢者をより一層活用し
ていく上でのポイントとなるのは、経
営者が高齢者雇用について自らの考え
方を明確にすることだと思っている。
経営者が高齢者雇用の重要性を十分認
識し、それを方針として明確に打ち出
すことが、企業現場において高齢者と
十分に連携を取り合いながら様々な課
題に対応していくことにつながるので
はないかと思う。
熊谷 行政としてしっかり取り組むべ
き課題は、希望すれば誰もが六五歳ま
で働き続けることができる社会をいか
につくっていくか、ということだ。そ
の意味では、平成一六年に行った高年
齢者雇用安定法の改正の成果は着実に
上がってきている。二○一三年には公
的年金の定額部分の支給開始年齢が六
五歳になり、さらに二○二五年には報
酬比例部分も含めて六五歳になること
から、六五歳まで皆さんが不安を持た
ずに働いていけるような社会の枠組み
づくりをさらに進めることが必要だ。
そのためには労使の方々とともに十分
に議論をしながらしっかりと取り組ん
でいきたい。
清家 冒頭の基調講演でも申し上げた
ように日本は世界で一番高齢化が進ん
だ国になる。同時に高齢者がとても元
気で就労意欲が高いという面でも世界
一である。この二点を考えると、実は
日本という国は世界に向けて高齢社会
モデルを発信できるポジションにいる
のではないか。日本は今まで政策の面
でも労使の努力という面でも高齢者雇
用の促進、あるいは能力の活用という
点では先進国の中でも素晴らしい実績
を残している。ぜひこれからもこのト
レンドを伸ばして行っていただきたい。
おそらく、団塊の世代の人たちが高
齢化するこの数年が、彼らを先導者と
して本格的な高齢者就労モデルをつ
くっていくための重要な時期になるだ
ろう。その上でさらにその先、六五歳
定年制の導入も含め、六五歳以上七○
歳までの雇用のあり方をぜひ労使で
しっかりと議論していただきたい。
今回の改正高年齢者雇用安定法の例
は、日本の労使がぎりぎり議論して、
しっかりとしたルールを決めると、物
事が実際に目に見えて進むということ
のいい事例だ。その意味では、雇用の
ルールは労使と学識経験者の三者構成
による審議会の中でしっかりと決めて
いくことが実効性の面からみても重要
ではないかと思っている。
遠藤和夫(えんどう・かずお)/日本経
済団体連合会労働政策本部主幹
一九八七年中央大学法学部を卒業後、
日本経営者団体連盟(現日本経団連)
入職。総務本部総務管理グループ副長、
国民生活本部社会保障グループ副長、
労政第二本部労働法制二グループ長を
経て、二○○九年四月より現職。
熊谷毅 (くまがい・たけし)/厚生労働
省職業安定局高齢・障害者雇用対策部
長
一九八一年労働省入省。熊本県職業安
定課長、雇用均等・児童家庭局職業家
庭両立課長、労政担当参事官、労働基
準局総務課長、大臣官房総務課長等を
歴任し、二○○九年七月より現職。
清家篤 (せいけ・あつし)/慶應義塾大
学商学部教授、慶應義塾長。博士(商
学)。専攻は労働経済学。
一九七八年慶應義塾大学経済学部卒業、
同大学大学院商学研究科博士課程修了、
同大学商学部助教授を経て、一九九二
年より同教授。二○○七年より商学部
長、二○○九年より慶應義塾長。この
間ランド研究所研究員、経済企画庁経
済研究所客員主任研究官等を歴任。現
在、労働政策審議会委員(厚生労働省)
などを兼務。近著に『エイジフリー社
会を生きる』NTT出版(二○○六年)、
『高齢者就業の経済学』(共著)日本経
済新聞社(二○○四年、二○○五年の
第四八回日経・経済図書文化賞受賞)、
『労働経済』東洋経済新報社(二○○
二年)などがある。
長谷川裕子 (はせがわ・ゆうこ)/前・
日本労働組合総連合会総合労働局長
一九七四年八王子市中野上町一郵便局
入局。一九八三年全逓信労働組合中央
本部副婦人部長、一九八四年全逓信労
働組合中央本部婦人部長、一九八九年
全逓信労働組合中央執行委員。一九九
九年日本労働組合総連合会労働法制局
次長、二○○一年日本労働組合総連合
会労働法制局長、二○○三年日本労働
組合総連合会雇用法制対策局長を経て、
二○○五年より現職。
藤井宏一(ふじい・ひろかず)/労働政
策研究・研修機構統括研究員
東京大学経済学部卒業。専門分野は労
働経済、統計。一九八四年労働省入省、
経済企画庁出向、労働省政策調査部労
働経済課課長補佐、(財)連合総合生活
開発研究所主任研究員、厚生労働省政
策統括官付労働政策担当参事官室労働
経済調査官等を経て、二○○五年八月
より労働政策研究・研修機構(JIL
PT)に出向、現在に至る。「労働白書」、
「労働経済白書」、「経済白書」の執筆
に参加。主な研究成果は、JILPT
プロジェクト研究シリーズNo.3『こ
れからの雇用戦略 │ 誰もが輝き活力
あふれる社会を目指して』(共著、二○
○七年)、労働政策研究報告書 No.95
『失業率の理論的分析に関する研究│
中間報告』(共著、二○○八年)などが
ある。
プロフィール
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